
前回の鈴木さんに続いて走り高跳び選手です。今回は身長171cmと小柄ながら頭上53cmの2m24の自己ベストを持つ土屋光さん(筑波大)を紹介します。
「ジュニアオリンピックがあることは知っていました。でも、それは遠い存在で、自分には無関係なものだと思っていました」。現在、走り高跳び日本ランク2位の土屋光さん(筑波大学3年・体育専門学群)は、中学時代の率直な心境をそう話す。その土屋さんは約6年の間に成長を遂げ、今では世界の舞台で闘かっている。先日、ドーハで行われたアジア大会では、6位という結果を残した。

走り高跳びに出会ったのは、小学校の授業の時だった。当時のことを、「なぜか、他の子よりも飛び抜けて良い記録を出せたんです。それと、バーを越えるときの“浮く感覚”に面白さを感じました」と振り返る。さらに、家族の後押しが走り高跳びの楽しさを高めていった。「初めて一つのことに打ち込んだのが走り高跳びでした。そんな自分を、家族はサポートしてくれました。それが嬉しかったです。新しい靴を買ってくれたり、試合の後には美味しい食事に連れて行ってくれましたから(笑) 」
中学生になっても陸上を楽しむ姿勢は変わらない。その頃はまだ、世界大会はおろか全国大会に対する執着心はない。中学3年次のベスト(1m70)が、全国大会標準記録(1m86)に及ばないことを気にはしていなかった。
当時の目標は、「大会(大阪府大会)でよく顔を合わせるライバルに勝つこと」にあったと言う。だから、「確かにライバルに一度も勝てなかったのは悔しかったですね。でも、毎年自己ベストを更新していましたし、ハイジャンプを楽しんでいました」と微笑む。
高校は、陸上に関しては無名といえる金剛高校に進学した。陸上の先生は長距離専門で、走り高跳びには詳しくない。部員にも目立って活躍する選手はいなかった。また、練習時間は標準的な2時間程度だった。陸上一筋の高校生活ではなく、勉強や遊びと同様に、高校生活の一部として陸上があった。
そういった環境の中で、高校1年次にはベストを1m93まで伸ばす。1年間で23cmアップということになる。飛躍的に記録を伸ばした要因の一つは、助走の改善と言う。「それまでは、がむしゃらに走って跳ぶって感じでした。それを、マーク(目印)を置いて、同じ歩数・軌道で踏み切るようにしたんです。跳躍に安定感が生まれましたね」。もう一つの要因は、中学時代からコンプレックスを抱いていた身長(中学入学時、150cm程度)が伸びたことだった。まだハイジャンパーとしては小柄な方ではあったが、高校卒業時の身長は169cmになっていた。

「高校になってようやく、全国大会やジュニアオリンピックが明確な目標となりました」の言葉通り、高校2年次にインターハイ(3位)、高校3年次には世界ユース(3位)と、戦いの舞台は次第に世界に移っていった。
「目標とするライバルや大会があったおかげで記録を更新できたんだと思います」。目の前にある目標を追いかけながら、陸上を楽しむ姿勢は中学生の時と変わらない。少しずつ目標を高めていった結果いつの間にか、ずっと遠くにあった世界大会や世界レベルの選手が、手の届くところにきていたのだ。そして高校3年のとき、日本屈指の陸上名門校・筑波大学への進学を決意する。
筑波大学陸上部に入部してすぐに、「身近にライバルがいなかった環境からライバルばかりが集まる環境」への変化を体感する。ただ、この変化を好意的に受け止めていた。「嬉しい変化でした。他の選手がどういった練習をしているかや、考え方などが分かり勉強になりました。あと、モチベーションが高まりましたね」。そして、「スタートの構えや、力の入れ方・抜き方など、基本的な身体の使い方を教えて頂いた」と、跳躍の指導経験豊富で日本記録保持者やオリンピック選手を多く輩出している村木征人コーチから多くのことを学んだと言う。

こうして、さらに才能を開花させていく。大学1年次は日本ジュニア選手権で初優勝を飾るなど、ベストを2m18にまで伸ばす。怪我に泣かされた2年次は、ベストこそ更新できなかったが、2m20成功への手応えを掴んだ。そして、手応えを保持したまま冬季練習に励んだことが、今季の好調に繋がった。2006年4月に、筑波大学競技会で2m22に成功。その5ヵ月後の9月には、アテネ五輪金メダリストのステファン・ホルム選手も出場したスーパー陸上で、2m24(3位)に成功する。
次の目標は2m27だと言う。これは、今年、土屋さんの地元・大阪で行われる世界選手権のB標準記録でもある。その手応えについて「スーパー陸上などで2m27に数回挑戦したんです。そのときクリアすることは出来ませんでしたが、『これだな! 』という感覚は掴めました。あと、スーパー陸上を経験して、“重点を置く試合を決めることが重要”だと分かりました。それまでは、体調さえ良ければどの大会でも全力で挑んでましたからね。この教訓を活かし、重点を置くと決めた試合に向けて調整していけたなら・・・2m27をクリア出来ると思います」と目を輝かせる。
今年は大阪世界選手権の前に、同じ大阪で日本選手権が行われる。まずここを目標にすると言う。「僕は大舞台を楽しんでいます。これだけのお客さんが見てくれているのだから、絶対に良い跳躍を見せたいと思えるんです。期待して下さい!みなさん、応援よろしくお願いします」今、土屋さんの目は“ハッキリと映る日本や世界の舞台”をとらえている。
まずは日本選手権で勝つことが目標となるが、再び世界選手権のスタートラインに谷川さんが立ち、世界の強豪と戦う姿を見せて大阪の熱い風を、ここ、つくばの地にも吹かせてほしい。